フェスティバルお祝い絵を描いていただきました。

わあわあ!何人かの方に書いていただきました。
せっかくですので私がSSを付けて少しずつ紹介させていただくことにしました。

マイマイトーカ

今日のイラストはマキさんです。マキさんにはマイマイトーカの絵をよく書いていただいていてとっても嬉しいです。
以下はSSです。

 

 「けふん、けふん」

 弱々しい少女の咳が部屋の空気をを小さく震わせる。
 牛の角と耳と尻尾を持った獣人の桃歌はベットの上で顔を赤く火照らせ、浅い呼吸を繰り返していた。彼女のベットに寄り添っているのは、緑色のカエルのようなクマのような耳を持った獣人の苺々。唯一の家人で愛しい人である桃歌が体調を崩し、苺々は気が気でならなかった。

 「桃歌、大丈夫?濡れタオル変える?」
 「ううん。大丈夫だよ。お医者さんの言った通り、薬を飲んでたら大分楽になったみたい。もうすぐ、治るよ」

彼女はにっこり微笑んだ。

 

 桃歌が倒れたのは3日前のことだった。どんどん熱が上がっていき、市販の薬でも状況が改善されなかったので、苺々は一念発起して桃歌を「塔」の病院へ連れて行った。「塔」とは世界と世界を繋ぐハブのような世界であり、塔の形をしているとされることから「塔」と呼ばれている。現在の2人の居住地である地球の日本では身元を保障するものがないので「塔」に行くことになったのである。

 苺々は桃歌を、もうひとつの姿である獣の姿にし、布で巻くと抱き抱えた。桃歌は最初は遠慮していたが、衰弱していたのだろう。やがて、素直にその身を任せた。

 医者に診せたところ、桃歌の診断はただの疲労と風邪だった。即座に地球のデータベースにアクセスし、季節外れの風邪だと告げる医者。薬を処方してもらい、早速帰ろうと思っていた2人を待ち構えていたのは「異世界性物質洗浄装置」だった。様々な世界と繋がる「塔」では、外部から持ってくるウィルス、薬品、その他物質を持ち込むことは重篤な危険行為とされている。苺々はかなり不服そうにしていたが、桃歌は巨大洗濯機のようなものの中でしばし洗浄された。本人曰く面白い経験だったらしいが、その表情には疲れが浮かんでいた。

 

 そんなことがあってから、苺々は仕事を休み桃歌に付き添っている。医者の薬はよく効いたようで桃歌は日に日に元気になっていったが、苺々は彼女から離れることができなかった。

 「季節外れのかぜだって。わたしってやっぱりどこかずれてるね。ふふ」

 穏やかに笑う桃歌に、苺々は罰の悪そうな顔をする。

 「この私が付いていながら桃歌にこんな思いをさせてしまうなんて……」

 桃歌の手をきゅっと握る苺々。

 「苺々ちゃん。風邪うつっちゃうよ」
 「桃歌のなら、いい」
 「それはわたしが困るよ。……でも、お花見行けなかったのが残念だったね。せっかく、めずらしく苺々ちゃんが行くって言ってくれたのに」

 季節外れの4月。既に満開を迎えた桜は、少しずつ花びらを落としてゆく。

 「それで思い出した!」
 ぴんと背すじを伸ばす苺々。タタッとすごい早さで桃歌の部屋を出ると、何やら背中に隠して戻ってきた。
 「?苺々ちゃんどうしたの?」
 「あのね、これ「塔」で買ったスクロールなの。一回の使い切りだけど」
 「すくろーる?」
 「見てて!」

 苺々が丸まった羊皮紙をアコーディオンオルガンを奏でる時のように広げる。羊皮紙に書き込まれた模様が微かに発光する。次の瞬間だった。

 

 「うわあ!」

 部屋に一面の桜の花びらが舞う。それは、どこか日本のものとは違って、桜への憧れだけで作られたにせものの花びらだったけど。

 「きれい!きれい、すごい!」

 大切な誰かを喜ばせるには十分で。

 ひらひら、ひらひらと薄紅色が舞う。時々、赤みが強いものや、青色をしたものなんかも降ってくる。

 「今年はお花見行けなかったから。気分だけでもって思って」

 いとしいひとの笑顔に照れた顔を見せながら苺々が呟いた。

 「うん、うん。ほんとに。素敵なお花見だよお。あ! わたしのところに花びらいっぱいたまってる。えい!」

 桃歌が手のひらいっぱいに花びらを掬って苺々に向かって飛ばす。それを受けて苺々も桃歌の頭上へ花びらを注ぐ。

 2人の楽しいお花見は、こうして静かに送られた。

 数日後には元気になった桃歌とベッドで無愛想な顔を浮かべる苺々がいたのはお約束である。